「スリー・ビルボード」のあらすじ、感想、見どころ

映画

アメリカ、ミズーリ州の田舎町。道路沿いに立つ3つのビルボードに、突然目を疑うようなメッセージが張り出された。「娘はレイプされ焼き殺された」「犯人はまだ捕まらない?」「ウィロビー署長、なぜ?」ビルボードを借り受けたのはミルドレッド・ヘイズ。7ヶ月前、娘のアンジェラを何者かにレイプされ焼かれて殺害された、その母親である。

娘の死に打ちのめされていたミルドレッドは、いつまで経っても犯人も上がらず事件解決も見えないことに、警察に対する不信感と怒りを募らせ、遂にビルボードに怒りの言葉を投げかけた。ウィロビー署長は、住民たちから尊敬され信頼されている警察官である。そのウィロビーに挑戦状を突きつけたミルドレッドは、当然、住民たちの怒りを買った。唯一の味方である息子のロビーも、母親の行動に憤慨した。

中でも警官ジェイソン・ディクソンは、上司ウィロビーに刃向かうミルドレッドの態度に怒り心頭に発していた。典型的なレイシストであり、警官のユニフォームを着ただけの横暴極まりない男。幾つになってもマザコンで、小心者のくせに短気。単純な思考しかできず、感情に任せてミルドレッドに広告設置を許した広告会社社長のレッドを脅迫した。

ウィロビーは、ミルドレッドの気持ちを汲み同情的ではあったが、ビルボードはやり過ぎだと非難した。彼には愛すべき家族があり良き夫・父親だったが、膵臓癌を患っていた。余命の告白をミルドレッドにするも、彼女はあえてそれを知った上でそうしたのだった。事実上、孤軍奮闘するミルドレッドと、警察と住民たちの戦い。

ミルドレッドは、別れた夫チャーリーからもビルボードのことを非難される。彼はビルボードが引き起こす災難を恐れ、ミルドレッドに降ろすよう迫るが大喧嘩となる。
チャーリーは「アンジェラは、殺される一週間前に俺と暮らしたいと言っていたんだ。」と言い放ち、ミルドレッドは娘と口論したことを苦々しく思い出し苦悶する。

事件があったあの日、態度が悪くなった娘が「車を貸して欲しい」と頼んだのを断り、「夜道を歩いていてレイプでもされたらどうするの?!」というアンジェラに「レイプされればいい!」と吐き捨てていたのだ。そしてまさにその通りになってしまったのだった。

ジェイソンの嫌がらせはエスカレートし、ついに広告会社に押し入りレッドを2階から投げ落とし大怪我を負わせる。ジェイソンの滅茶苦茶な暴挙は警察からも疎まれ、やがて解雇される。ミルドレッドは歯の治療に行った時、ウィロビーの友人である歯医者にも報復されそうになる。

診察台に座っていた彼女は、歯医者の攻撃をかわし、逆に歯医者をドリルで負傷させた。ウィロビーの取り調べを受けた彼女は断固否定するが、尋問の途中ウィロビーは吐血する。自分の死期を悟った彼は、最後に家族と旅行の想い出を残し自殺する。

ある夜、ミルドレッドとロビーは3枚のビルボードが赤々と燃えているのを目撃する。必死に火を消し止めようとするが、もはや手遅れであった。警察の嫌がらせだと勝手に思ったミルドレッドは、警察への復讐をひとり企てる。深夜の町。ミルドレッドは、警察署へ火炎瓶を投げ入れ放火した。誰もいるはずのない署内には、解雇されたジェイソンがひとりウィロビー署長からの手紙を読んでいた。耳にはイヤホンを入れて。

ウィロビーの手紙は、ジェイソンに厳しくも優しい愛に溢れる言葉を残していた。「警察官にもっとも必要なのは愛なのだ」と。広がる火の手に気付いた時、ジェイソンは吹き飛ばされていた。彼は大火傷を負ったが、一命はとりとめた。ミルドレッドは、偶然居合わせた友人のジェームスに助けられ、放火犯として捕らえられるのを免れた。

負傷したジェイソンは病院に運ばれ、レッドと同室になった。包帯だらけの顔にレッドは彼に気付かなかったが、ジェイソンに謝罪され一瞬ひるんだ。しかしレッドは、ジェイソンにオレンジジュースを差し出した。ミルドレッドに、亡きウィロビーから手紙が届く。「憎しみだけで生きないで欲しい」というメッセージと共に、彼は焼けたビルボード再建のための5000ドルを支払っていた。
ミルドレッドはウィロビーの懐の深さに感謝するが、あえてメッセージは変えなかった。

その後、ミルドレッドはお礼にジェームスと食事に行くが、元夫チャーリーとガールフレンドに出くわせ、チャーリーから冷やかしの言葉を浴びた。さらに、酔った勢いでビルボードを燃やしたと聞いてしまった。怒りでいっぱいになった彼女は、小人のジェームスに八つ当たりをしてしまう。落胆したジェームスは去り、ミルドレッドはチャーリーに仕返しをしようと彼らのテーブルに向かうが、ワインのボトルを渡し立ち去る。

退院したジェイソンは、バーで飲んでいた。後ろの席で二人の男が話している。9ヶ月前に女をレイプし、焼き殺したとひとりの男が相手に言っている。男は、以前ミルドレッドの店に恐喝に来た男だった。はっとしたジェイソンは、男のカーナンバーでアイダホ州と確認し、わざと挑発し自ら怪我を負わされ男の皮膚のDNAを採取した。
ウィロビーの手紙やレッドによって改心したジェイソンは、やっとミルドレッドを助けようと思ったのだ。

ミルドレッドに男の話をしたジェイソンは、彼女との争いに終止符を打てた。しかし期待していたDNA結果は白で、しかもその男にはアリバイがあるという残念な結果だった。ジェイソンは落胆するも、男がレイピストであることは間違いないので、やはり報復のためにアイダホに行くことを決める。ミルドレッドも同意した。本当にあの男を殺すのか?「まぁ、ゆくゆく決めていこう」と笑い、旅の始まりで物語は終わる。

感想、レビュー

この映画の中には、アメリカを取り巻くさまざな問題が散りばめられている。凶悪犯罪、家族崩壊、人種差別、権力の横行、閉鎖的な思考、歪んだ家族愛、利己主義、排他的思考と行動などなど。特にニューヨークのような多種多様な人種の都会では見られない、暗くどんよりとしたマインドが田舎の人々にはあるような気がする。

物語は、3つのビルボードの、シンプルでかつ強烈なメッセージと共に、そこに渦巻く人間模様が刻々と展開されて行く。やはり圧巻の演技は主人公ミルドレッド役のフランシス・マクドーマンドだろう。あ!こんな中年女性いるいる!という風貌で、鬼と化したような女性を演じきっている。

ウィロビー署長役も上手いウディ・ハレルソン。そして今回ハマり役だったのがジェイソン役のサム・ロックウェル。こちらもいるいる、あるあるこんな親子!というマザコンの馬鹿息子役を見事に演じた。どうしようもない男だが、しかし「愛情」はあるのだ。母親に対する愛、そして上司のウィロビーに対する敬意と愛。
だから憎めない。根っからの悪ガキではないから、最後には改心しミルドレッドとわかり合う。

それにしても面白いのは、物語の結末に犯人らしき男が浮上するのに、その男を白と設定しているところだ。本当にそうだったのか?見えない権力に騙されたのか?
答えはミルドレッドにもジェイソンにもわからない。復讐に燃えていた心から離れ、少し客観的に冷静に自分たちを見るシーンになって終わる。ラストシーンは観客に委ねるところがニクい。/かぁこ

監督:マーティン・マクドナー
公開日:アメリカ 2017年11月10日、イギリス 2018年1月12日、日本 2018年2月1日
キャスト:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ

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